Topics詳細
Training
NLX

テレワーク環境下でのOJTとは?運用ポイントも解説

新型コロナウイルス感染症の影響で、半ば強制的にリモートワーク(テレワーク)に、“慣れてきた”という声もある一方、現場で育成を預かる方々からは、リモートワーク環境下での有効な育成の手立てはないのか?という多くの声があがっています。

今回は、OJTという取り組みそのものを紐解きながら、従来型のOJT制度をリフレクション(内省)し、ニューノーマル時代の現場育成について考えてみたいと思います。

そもそもOJT制度とは?

OJTの歴史

OJTの歴史は第一次世界大戦まで遡ります。戦争により、常時の10倍近い増員が必要となったアメリカの造船所で、増員された作業者の訓練を任されたチャールズ・R・アレンがOJTの源流となる教育フローを開発したと言われています。

アレンが開発した教授法は、4段階職業指導法と呼ばれ、以下のプロセスを踏みます。

Step1. Show(みせる)⇒Step2. Tell(説明する)⇒Step3. Do(やらせてみる)⇒Step4. Check(確認・指導する)

日本へは高度経済成長期のタイミングで導入され、今では一般的かつ重要な育成手法として位置付けられています。厚生労働省による調査では、コロナ禍であった令和2年度でも、59.4%の企業および事業所が“計画的なOJTを実施”しています

参考:厚生労働省 令和2年度「能力開発基本調査」の結果を公表します

OJTの由来と今

OJTは、On the Job Training の略称です。通常、入社社員(トレーニー)の所属部署の先輩社員や上司がトレーナーを担い、通常業務を通してトレーニングします。そのため、実践的に経験を積むことができ、トレーニーの早期の戦力化が期待できます。

OJTとよく比較されるトレーニングがOff-JTで、Off the Job Trainingの略称です。Off-JTは、日常の職場や業務から離れて行われるトレーニングです。入社後すぐに行われる新人研修が一番わかりやすい例ですね。

その他、近年ではOJDという研修も注目を浴びています。OJDはOn the Job Developmentの略称で、先輩や上司に指導を受ける点はOJTと同じですが、トレーニングの目的を”将来に必要な職能開発”に据えている点が特徴です。

今、なぜOJTを考えないといけないのか

OJTが必要な背景

OJT制度について、何故あらためて見直す必要があるかを、社会背景から考えたいと思います。

(1)コト社会化

これまでの時代は、マスメディアの力が今以上に強く、トレンドはメディアによって形成されていました。トレンドの変化は、比較的緩やかで、高品質・高付加価値のモノを正確につくることが求められました。それゆえ、育成においては社内に存在するマニュアルを正確に覚え、遂行ことが重要視されていたのです。

しかし、情報技術の発達に伴ったビジネス環境の変化は激しくなる一方で、マニュアルで対応できない事柄のほうが多くなっているのが現状です。

そのような状況においては、上位方向から下位方向に“どうやるか”を教えるのではなく、取り組み方を“どう考えるか”を伝えなくてはなりません。その考え方を伝えるには、一日の長がある上司・先輩が実際の仕事を通じて伝承していく必要があるのです。

(2)人材不足と新入社員の期待

日本では2013年を境に、全ての企業規模で人手不足が深刻化しています。企業にとっては、採用力の強化と離職の抑制が急務であることは言うまでもなさそうです。

また、新入社員の入社の決め手に関する各種調査では、「自己成長ができる環境」が、1位または2位を獲得しています。環境という言葉が意味するところが幅広いですが、少なくとも自己を育むことをサポートしてくれる社風や制度、体制などを指しているといって間違いないでしょう。

OJT制度を運用する際に重要なこと

OJT制度を効果的に運用するにあたって、4つのポイントを紹介します。いずれもリモートワーク(テレワーク)でお互いが観察できない環境だからこそ、強く意識していただきたい内容です。

(1)トレーナー自身の成長への動機付け

1つ目は、トレーナーへの動機付けです。トレーナーは、社内の評価が高かったり、面倒見がよい方が担当することが多く、通常業務も大変に忙しいのが常です。そういった方々にトレーナー役を担うことの動機付けを正しく行わなければ、やらされ仕事化し、後輩の成長は望めません。

では、どのように動機づけるか。それは、トレーナーの経験を通じて、トレーナー本人にどのように成長してほしいかを言語化することです。
トレーナーとして後輩の育成に関わることで、「より相手にわかりやすいコミュニケーションができるようになる」、「育成する時間を捻出するために自身の業務をより精緻にマネジメントできるようになる」「人と業務の両側面をマネジメントすることで、一段上の視座を持てるようになる」、といったようなトレーナーの今後のキャリアを見据えた期待値を明確に伝えることが求められます。

(2)トレーナーとトレーニーの目線合わせ

2つ目は、トレーナーとトレーニーの目線合わせです。トレーニー(新入社員)は、OJTに入る前にOff-JTで新入社員研修を受けることが一般的です。

そのため、トレーナーは、まずトレーニーが新入社員研修で何を学んで来ているのかを理解することから始めます。研修内容と実業務が完全合致することが好ましいところですが、実際には一般化された研修内容と現場では、少なからずズレがあります。
このズレが、トレーニーが研修で学んだことを現場で実践出来ない状態にしてしまうため、慣習や考え方、表現など、現場の実際を教えながら、OJTとの接続を図ります。
ズレを解消し、トレーニーと目線を合わせて、“共通言語”を持つことで、職場にうまく着地することをサポートできます。

(3)業務レベルに落とし込んだ目標設定

3つ目は、業務レベルに落とし込んだ目標設定です。OJT制度を運用されている場合、トレーニーの数か月後~1年後の目標を設定しています。ただ、多くの現場で見受けられるのは、例えば、1年後に「物事を論理的に考えられるようになっている」や「自律的に担当業務を遂行できるようになっている」といった抽象度が高く、何をもって出来ている、出来ていないを判断すればよいのかわからないという目標設定です。これでは、トレーニーも自身が成長しているという実感もなければ、正しい評価も得られないということに陥ってしまいます。
そのため、「参画するプロジェクトの報告会資料を一人称で作成し、相手との合意形成ができる」といったように、より業務シーンを想定して具体的な目標を設定します。それにより、実業務の具体的なエピソードをもとにフィードバックができ、次のレベルを意識した指導が可能になります。

(4)育成の見える化とノウハウの蓄積

4つ目は、育成状況や結果を「閉じない」ことです。具体的には、OJTの成功・失敗事例などを可視化し、社内で共有することで、トレーナーとトレーニーの中に閉じた教育ノウハウを社内に展開し、会社として長期的な資産となる人材育成力を高めることができます。

例えば、トレーナーは育成計画に沿ってトレーニーに業務を与えますが、その経過や結果をフォローしつつ、その内容を社内で見える化することで、トレーナー向けの研修や新入社員研修の改善に活かすことができます。よく人を育てる風土を醸成したいとの相談をいただきますが、人を育てるという活動が可視化され、そのノウハウが蓄積してこそ成るものです。

OJTを制度化する際のポイント

OJTの具体的な手立てについて、「制度面」「運用面」から紹介します

(1)制度面

OJT制度はトレーナーとトレーニーの間でのみ成立するものではありません。育成監督者に加え、育成責任者、さらに課内外のメンバーのフォローや、時には他部局のメンバーの関わりも重要です。

具体的には、以下のような役割が期待されます。

(育成)監督者 育成状況・結果の評価、育成環境の整備・改善
(育成)責任者育成結果への責任、トレーナーからの育成計画や報告の承認・助言、トレーナーの育成、監督者への報告・相談
トレーナートレーニー育成の実行責任、育成計画案の作成、育成経過の確認と改善案の策定、責任者への報告・相談
トレーニー育成計画に沿った業務遂行、トレーナーへの報告・相談
課内外のメンバートレーニーやトレーナーの支援、相談
他部局のメンバートレーナーやトレーニーへの声かけ、人脈形成の支援

ここでポイントとなるのは次の2点です。

①トレーニーだけでなく、トレーナーもOJT制度を通じた育成対象であること

②課外や他部局のメンバーのトレーニーへの過剰な接触に注意すること

監督者と責任者は、トレーナーの育成能力やマネジメント能力の向上もタスクと捉えることが重要です。課外や他部局のメンバーにトレーナーの育成フォローを依頼する際は、「何かをトレーナーに“教える”というのではなく、声をかけ、“話を聴く”、“一緒に考える”という姿勢が大切です。

また、課外や他部局のメンバーにトレーニーのフォローをお願いする場合は、彼らに、「トレーニーは毎日新しいことを吸収して高負荷の状態であること」を理解してもらい、「声をかけ、“気にかけているよ”」という姿勢で臨んでもらうようお願いしましょう。

(2)運用面

OJT制度は全社での取り組みが前提ですが、その成否の大部分はトレーナーにかかっています。トレーナーがモチベーション高く、質の高いトレーニングを提供できるように以下のような運用をおすすめします。。

①   OJTの取り組みを評価対象とする仕組み

目標管理制度を取り入れている会社であれば、トレーナーを担う社員の目標にOJTの取り組みを評価項目に盛り込むことをおすすめします。その際に、トレーニーの育成目標だけでなく、トレーナー自身の成長目標も組み込むことを本人の成長を促します。

②具体的な育成計画策定を支援

育成計画の策定の際に、例えば、“トレーニーの積極性を醸成し、社会人としての基礎スキルを身につけさせる”といった抽象度の高い計画を立ててしまいがちです。

しかしこれでは、「積極性や基礎スキルとは何を指すのか?」「どのように伸ばすのか?」「達成度をどのように測定するのか?」が曖昧となり、最終的に形骸化してしまいます。

そこで育成計画を策定する際は、育成するスキルをより具体的に特定し、その効果的な育成方法として実際の業務レベルまで落とし込み、その成果の測定方法を確認することが重要です。

③ 育成ノウハウの相互学習

OJT はトレーナーとトレーニーの間でのやりとりがメインになるために、それぞれの状況が可視化されにくく、課や部を跨いで共有されにくい傾向にあります。

そこで、トレーナーの導入研修や振り返り研修などで、それぞれトレーナーが持つ失敗経験や成功経験、ノウハウなどを共有し、全社的に取りまとめることで、会社全体の育成ノウハウにおけるレベルアップにつながります。

④   組織的なPDCAを回す

制度は、制度が整備され、巡航速度の運用に乗った時点から形骸化が始まります。

どうしても足元の業務が最優先され、OJTの活動が後回しになり、最悪は期初期末にしか使わない意味のないものになってしまうことも少なくありません。 人を育てることが当たり前であることを習慣化させるためには、「制度上の不具合は何か」、「社員が感じている不都合は何か」をつぶさに収集し、組織的に制度をアップデートし続けていきましょう。

テレワーク(リモートワーク)環境下における育成現場の困りごと

新型コロナウイルス感染症の影響で緊急的に取り入れたテレワークに、“慣れてきた”という声もある一方、育成の現場では混乱が続いているのではないでしょうか。トレーナー(指導する社員)とトレーニー(指導を受ける社員)の立場から、育成現場における対面とリモートの具体的な相違点は以下の通りです。

対面リモート
トレーナー・トレーニーの理解度を把握しやすい
・横目で進捗状況を確認できる
・適宜、声がけをすることができる
・過程を評価することができる
・トレーニーの理解度が見えにくい
・報告がないと状況を把握できない
・気軽な声がけができない
・過程の評価が難しい
トレーニー・”まず″始めても都度質問できる
・トレーナーの様子を見て相談できる
・適宜相談するので詳細報告が不要
・気軽に質問ができない
・トレーナーの様子が見えづらい
・理解を得るために詳細報告が必要

上記の通り、リモート下の育成でネックとなるのは、お互いが“見えないことです。

対面で働いている時には、無意識のうちに多くの情報をキャッチしていました。リモート下では、言いたいことが伝わらない、場の雰囲気が読み取りにくい、トレーニーの抱えている問題に気づきにくいといった問題が起きやすいです。

その点を意識したコミュニケーションが必要となります。

テレワーク(リモートワーク)環境下での運用ポイント

①対面時よりも表情や仕草などの非言語の情報を意識的に入手する
    オンラインでは、より双方向のコミュニケーションが必要となります。
トレーナー自身も表情が見えやすいカメラ位置を意識しましょう。また、自分の考えや思いを自由に発言する環境づくりを心がけるとより活発なコミュニケーションにつながります。
 
②理解度を確認するために、理解した内容の復唱を求める
    理解したのかトレーニーに話してもらうことで理解度を図ることができます。
    また、トレーナーも作業指示の際に5W1Hで整理できるように意識しながら説明を心掛けるとトレーニーも整理してメモを取りやすいです。
 
③定期的なミーティングを設定しつつ、チャット等で気軽に相談できる環境を整える
    トレーナーに対して遠慮してしまう場面があるので、チャット等ではよりやわらかい文面を心掛け、感謝の気持ちや、仕事に限らず困っていること、不安なことを丁寧に聞くことも大切です。
 

離れた環境だからこそ、各トレーニーに合わせたコミュニケーションスタイルや心理的安全性を高める工夫が必要となります。

まとめ

コト社会への推移や人材不足、新入社員の会社への期待値を背景に、今後益々OJT制度の重要性が増してくる中で、育成がトレーナー任せであるケースが多々あリます。

OJT制度を機能させるためには、トレーナーとトレーニーに加えて、育成責任者や監督者の関与、さらには全社的なバックアップが不可欠であり、トレーナー自身の成長も見据えたトレーナーの教育も必要です。

ぜひ、OJT制度をリフレクションして、企業の人材力の向上や採用力の強化に繋げてみてください。

貴社の生産性を
一変させませんか?

まずはお問い合わせから始まる。

お問い合わせボタン
Category
Top
Back to
Top